東京高等裁判所 昭和48年(ラ)150号 決定
ところが本件においては、前叙の如く、訴はすでに仮処分の取下前に提起され、しかも所定期間内にその旨の申出がなかったのであるが、右訴訟完結前の訴提起の点については、前示一一五条三項の趣旨が主として担保提供者の保護を図るものであること、および相手方の本件建物の占有が昭和四七年五月頃にはすでに終了していたと認められるうえ、右訴の提起より本件仮処分取下書の送達までの間が僅か一週間程度である等という本件諸般の事実関係をも総合すると、右の訴提起をもって早きに失し前示法条にいう権利行使に該らずとみるは当を得ないものというべく、また前記申出のなかった点は、多少問題が存しない訳ではないが、結局担保取消決定の確定前に、権利行使の事実が証明されたときは、担保権利者は擬制同意の効果を免れると解するのが相当である。
そうしてみると、結局本件の問題点は、抗告人の提起した上記損害賠償の訴が、その内容において、前示法条にいう権利行使に該るか否かに存するところ、右に権利の行使とは、当該担保提供の原因たる仮処分等に因り担保権利者が蒙った損害につきその賠償を求める訴を提起することをいうものと解されるのであるが、本件において抗告人の提起した訴は、本件記録中の訴提起証明にかかる訴状(別紙訴状と同じ)によると、相手方が本件建物(および土地)を権原なく占有したことに因り抗告人の蒙った損害の賠償を求めるというのであって、その間必ずしも本件仮処分に因り蒙った損害を含むことが明示せられている訳ではない。
しかし飜って考えてみると、本件仮処分は、前示の如く、債務者に対し、債権者が本件建物を占有使用することの妨害を禁止するもの、換言すれば債権者が右建物の占有をなすことを一応許容するものであるから、もし右仮処分にして不当な仮処分であるときは、それに因り債務者が蒙る損害は、一般にある物件の使用権者が、他の不法占有に因り通常蒙る損害(不動産の場合にあっては通常賃料相当の損害金)と、おおむねその範囲を同じくするものということができよう。しかして、これを本件についてみると、抗告人が相手方に対して提起した訴は、相手方が本件仮処分後の昭和四三年六月七日頃より同四七年五月一七日頃までの間、本件建物(および土地)を占有していたことに因り、被告人の蒙った賃料相当の損害金を求めるというのであるから、右訴の請求原因には必ずしも右損害と本件仮処分との因果の関係が明示せられていないけれども、黙示的にその旨が包含せられているとみる余地があるのみならず、少くとも客観的実質的にみて右の訴をもって前示法条にいう権利の行使たる訴に該当すると解するのが相当である。
然らば結局、本件抗告人は民事訴訟法一一五条三項にいう権利の行使をなしたものというべきであるから、本件については、担保取消につき権利者の同意があったものとみなして右取消決定を行うことは許されない。
(桑原 青山 小谷)